1999年のアルバイト日記

 

99年1月
家庭教師(高2)atU田家(和歌山県橋本市)
 時給3000円+交通費

 12月初めK戸家での家庭教師のクビを宣告されてから、別口の家庭教師を大学の掲示板で探していたが見つからず、これは今年中に見つけるのは無理かと思っていたら、12月最後の授業の日にバシッと見つかった。
 科目は数学のみ。易しめの問題集を1冊買いなおして、行きの電車の中で必死に復習してます。
 4月からは高3ということで、大学の家庭教師料金表に基づき時給3250円にアップ。しかし生徒が文転(理系から文系に転換すること)したいと言いだした。そんなことをされたら仕事がなくなってしまうー。

 

99年4月
家庭教師(中3)atU田家(大阪府堺市)
 時給2375円+交通費

 友人の紹介。何故かまたも女の子である。
 KinkiKidsの光一が好きという典型的かどうかはわからんこの女子中学生はとにかく計算中の
独り言が多い
 「ああもー2えっくすやんかーあーもーボケてきたわけわからんってマイナスやっちゅーねんもー・・・・・。」
 しかし、数学は嫌いではないらしい。むしろ好きな部類だという。
 どうやらこの独り言は愚痴ではなく一種の好意表現(犬が尻尾を振っているようなもの)であるようだ。
 その証拠に、嫌いな英語をやらせると彼女は一気にヒートダウンし、沈黙する。

 

99年8月
キャンペーンのお手伝いat本町
 2時間で3500円

 私は、危険な経験やアウトローな行動は学生のうちにしておくべきだと思う。
 社会に出たり家庭を持ったりすると自分一人の体ではなくなってくるからである。
 今思えば、万引きとかももっと若いうちに一度くらいはしておけば良かったと思う(小3のころ、文房具屋で無意識のうちにポケットにクレヨンを入れてそのまま帰ってきたことはあるが・・・)。
 今回のアルバイトはanで表題の通り募集していた。大きい字で「500人の大募集!」と書いてあったが、具体的な仕事内容は記載なしで、また当日の持ち物は「印鑑持参」としか書いてなかった(ここポイント)。
 しかし2時間で3500円は魅力である。私は決断し、応募の電話をしたところ、係の人が仕事内容を説明してくれた。ところが、それを聞いた私の頭に最初のクエスチョンマークが点灯したのである。「携帯電話の加入の
説明を聞いていただくお仕事ですが、よろしいでしょうか? 実際に加入していただく必要はないんで・・・・・」 謎である。腑に落ちぬ。そんなことをしてどうするというのだ? 私は少々怪しみつつも、承諾の返事をした。
 そして数日後、相手側から電話がかかってきた。そのときは名前や電話番号の確認をしただけで、特に変なところはなかった。
 さらに、1日前になって再び相手側から電話がかかってきた。これがある意味決定的なものだった。「当日の持ち物の追加なんですけれど、
身分証明書と、公共料金の払い込み証も持ってきて下さい。」 ???・・・それはまさしく携帯電話の契約の際に必要な書類ではないか。一体どういうことなのか。私が念押しで「契約する必要はないんですよね?」と聞くと、「あ、はい、模擬的にするだけなので・・・・・」という返事。
 
サギだ。ゼッタイサギだ。私は確信した。
 「模擬的に・・・」と言って書かせた書類を契約に使うという手口か。いやもっと高度に、羽毛布団を買わせるナントカ商法みたいに何か催眠術のようなものをかけられて、我に返ったときにはもう契約していた・・・とか。
 とにかくこのバイト、すべきかするまいべきか。
 ここで前述の、私なりの人生哲学が出てくるのである。
 誘拐もされかけた(
奇跡の生還参照)。ホモにも襲われた。もう怖いモノなど無い(あるとすれば、ハードディスクのクラッシュとか)。
 ついに当日になった。私は(騙される)覚悟を決め難波の集合場所に行った。そこは雑居ビルの1階の事務所であった。入り口には20人ぐらいが列を作っていた。中に入ると、壁にはなぜか
建設関係の許可書らしいものが貼ってあった。あやしいあやしいあやしい・・・。
 受付で自分の名前と整理番号を言うと、地図を渡され「御堂筋線に乗っていただいて、本町で降りてもらって、この場所に行って下さい」と言われた。おいおい、車で連れて行ってくれへんのかい・・・まあそっちの方が危険だろうが。
 そしてその地図の上には大きく”
携帯電話会社「某企業」のキャンペーン!”と書かれていたのである。「某企業」とは別に私があえて伏せたのではない。本当にそう書かれていたのだ。一体なぜこの期に及んで会社名を隠す必要があるのか? もはや怪しさは極まったと言える。
 というか、ここまで怪しさを露出しといて、気づかないヤツがいるのか? この紙を貰って、本町に行くヤツは果たして500人の募集のうち何人いるんだ?
 私は自分で自分を馬鹿だと思いながら、地下鉄なんば駅へ向かった。
 そして半時間後。ビルの1フロアである会場に着いた私は、人の多さに度肝を抜かれた。想像をはるかに超える混雑ぶりである。これなら本当に500人いるかも知れない。ていうかこいつらみんなバカ? 俺もやけど。家族連れで来ている人もいるようだ。
 受付に行くと領収書を渡され、「帰るときに給料を記入した領収書と引き替えで貰って下さい」と言われる。
 その後しばらくそのフロアで待たされた。パイプ椅子に座りいろいろと考えを巡らせていると、「みなさん上にあがって下さい」という指示が。
 いよいよである。私は気合いを入れ直して、階段を上った。
 通された場所は、折り畳み式の机とパイプ椅子がたくさん並べられた、典型的な説明会の会場といった感じであった。私はなんとなく一番前の列に座ってみた。初めは端(通路側)の席に座っていたのだが、人が来たので奥に詰めた。やはりかなりの人数が来ているようだ。
 そして、満を持して壇上に若い男が登場した。マイクのスイッチが入り「プツッ」という音がすると会場は静まり返った。にわかに、男の背景のついたての裏側から、やらせっぽい少人数の拍手が聞こえてくる。男は挨拶のあと、「単刀直入に申し上げます」と切り出した。
 「今日みなさんにお集まりいただいたのは、みなさんが即座に16000円(正確な金額は失念)儲かるというビジネスをご紹介するためです」
 来た! 来た!! 来た!!! このとき、瞬間最大怪しさ率がMAXとなった。
 そしてその仕組みとは一体!? 男の説明はこうである。私たちが、指定された機種のPHS・携帯電話に契約すると、この場で即座に現金がもらえる。契約後半年間は解約が出来ないためその間の基本使用料は払わねばならないが、それを差し引いても16000円残る。これはもちろん通話料が0円だった場合である。つまり今ここで契約して半年間ほったらかしにした後で解約すれば結果的に16000円儲かっている、ということである。
 ん? これは思っていたよりは正攻法だ・・・。ついたての裏側から大勢のグラサンのニイチャンが登場したりする展開を予想していたのだが・・・。
 けどこれは彼らにとってどんなメリットがあるのだろう? 男は仕組みの説明の後「今月は特に販売台数を確保したいので」と言っていたのだが、単純に販売台数を伸ばすだけならもっと他の方法がありそうな気がするんやけど・・・。 それとも、やはり契約させたPHS・携帯電話が普通に使われることによる利益(通話料・半年経過以降の基本使用料)を期待しているのか・・・。 もしくは、さらにまだ何か裏があるのか・・・。
 まあしかし当初の予測よりは事態は深刻ではないようで、私は少し安堵感を覚えていた。
 いや、ここで油断してはならない。こんな得体の知れないビジネスに参加する気は毛頭ない。もしも無理矢理ハンコをつかされるようなことになれば私は断固拒否するぞ!!
 そして、説明会はついにヤマ場を迎えた。
 「このビジネスに参加していただける方、いや、参加していただけない方は、手を挙げてください」
 私は即座に手を挙げた。不覚にも最前列に座ってしまっていたので他の人の様子が分からないが、ここでためらってはいけない。
 そして後ろを振り返ってみると、なんとほぼ全員が手を挙げていたのである。
 民衆の勝利である。革命が起ったのだ。私にはそんなふうに見えた。
 出口に吸い込まれていく人波を眺めながら、係員たちはお互いに苦笑いをしていた。こんなハズではなかったのだろう。私が会場から出る時にはもう参加者は数えるほどしか席に残っていなかった。
 下のフロアでは、騒然とした中で給与の支払いが行われていた。たかが3500円だが、半分あきらめていただけに手にした時の嬉しさはひとしおだった。
 かくして、彼らの悪事は破れ去った。そしてその後に残ったのは、3500円×500人=175万円の赤字・・・・・なのだろうか? 私には知る由もない。

 

99年10月
交通量調査at堺筋本町
 12時間で16000円

 今頃になって、学生バイトの王道である(?)交通量調査を初めて経験することになった。きっかけは先輩の紹介である。
 しかし、またまたおいしいバイトに当たってしまった。シフト制で、12時間を1時間ごとのコマに区切り1コマ毎に場所を交代していくのだが、1コマで実際に計測する時間は20分、残りの40分は休憩である。しかも、12コマのうち4コマは休憩が取れるのだ。ということで単純に実労働時間を計算すると・・・(12-4)x0.3=2.5時間、ということになる。
 商売道具を見せて貰った。板に10個のカウンター(ボタンを押すと数字が1進む計数装置)がついており、通った車の種類に応じてカウンターの値を進めていく。分別する車種は「軽乗用車」「乗用車」「バス」「タクシー」「軽貨物車」「小型貨物車」「貨客車」「普通貨物車」「特殊車」「二輪車」の全10種類である。
 分類の方法を書いた紙を渡され、簡単な説明を受ける。いまいち感じがつかめないが、でもやってみれば出来そうな気がする。「まあ、3時間もやれば慣れるから・・・」と向こうの人は言った。
 最初の持ち場は、歩道橋の上からの片側3車線の道路の計測である。手すりの上にカウンターの板を置き、スタンバイする。
 そして時計が8時になった瞬間、スタート!
 「えー、二輪車、二輪車、乗用車・・・・・えーっとあれは・・・」
 5台目ぐらいでもうワケが分からなってしまった。これは想像を遙かに越える難しさだ・・・。
 打ちひしがれる私を全く気にすることもなく、車は次々に現れ、消えていく。「こんなもんできるかいー!!」と逆ギレモードに入りかけた私だが、「とりあえず数だけは合わせておいて欲しい」という注意を思い出し、通った数だけ適当にカウンターを進める。自分のカウント力(?)の無さをかみしめながら・・・。先ほどまで抱いていた根拠の無い自信が音を立てて崩れ去っていく。
 最初の1時間の計測はかなりデタラメになってしまった。
 聞けば、この現場はかなり交通量が多い(難易度が高い)場所だという。初回から大変な場所に当たってしまった・・・。
 特に混乱を招くのは「軽貨物」「小型貨物」「貨客車」「普通貨物」の4つ。軽貨物は軽自動車(プレートが黄色か黒色)かつナンバープレートの分類番号が4、小型貨物はトラックの形かつ分類番号が4、貨客車は乗用車っぽい形で分類番号が4、普通貨物はトラックっぽい形で分類番号が1。これらの車種が連続で来るとパニックに陥りやすい。
 それでも、向こうの人がいったように3時間目ぐらいで結構慣れてきて、ある程度は正確な計測が出来るようになった。
 それにしてもこの仕事って何かに似ているような・・・・・流れ来る物体を正確に読みとり、対応するキーを押していくという・・・・・そう、これは「ビートマニア」だ!!! 一度に大量の音符が来て処理しきれなくなるとミス(POOR)を連発してしまうところなど、そっくりである。
 そうか、ビートマニアで星4つしかクリアできない私がこの仕事をうまくこなせるわけがなかったのだ!! と納得しつつ、またしてもPOORを連発するのだった。

 

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