夏のおおぼけ

 

 おおぼけトロッコ。「おおぼけ」の豪快なバカさと「トロッコ」のかわいいバカさが見事にマッチした単語である。ただし、「おおぼけ」は地名である。

 私の田舎は徳島県鳴門市にある。昔からずっと帰省の際には、南海電車で和歌山港まで行き、そこからフェリーで徳島港(または小松島港)、さらにそこからバスと鉄道でJR板東駅まで、というルートを辿っていた。しかし今回は旅費を安くするために、青春18きっぷ(1日間JRの普通・快速電車に乗り放題というきっぷ)で瀬戸大橋経由で帰省することにした。これだとこれまで片道4000円程度かかっていたのが2300円で済む。

 しかし、せっかく青春18きっぷを使うのだからただ帰省するだけでは勿体ない。青春18きっぷは乗れるだけ乗ってこそ青春(わけわからんが)。というわけで私は今回、大阪にUターンする際に、前述の「おおぼけトロッコ」が走っている大歩危まで寄り道旅行することにしたのである。


■ 今回の行程
行程図

 


 

 8月13日(木)。お坊さんに来て貰ってお盆のイベントを済ませた後、昼御飯を食べて、12時45分頃出発。

 

板東  普通 ワンマン 13:01

 この板東〜徳島間は、南海電車とフェリーで帰省する際もいつも乗っていたので生まれた頃からほぼ毎年1回は乗っている。途中で日本一川幅が大きいという吉野川を通過する。ドアにもたれかかっていると運転手さんに怒られた。どうやらドア付近に人が居ると安全のためにドアが開閉できないようになっているようである。みんな気をつけよう。

 

徳島    13:24

 使い捨てカメラを買おうとするが、キオスクで買うと高い。昨日NHKの阿波踊り特集で映っていた風景を抜けて、ローソンへ行く。そこで「撮りっきりコニカISSIMOミラータイプ」なるものを発見。これはなんとレンズ付近にミラーが着いていて、そのミラーを見ながら自分で自分を撮る(あるいは自分で自分たちを撮る)ことが出来るというスグレものである。これさえあればグループで旅行に行ったときに一人が撮影して今度は別の人が撮って同じ風景を2回もとるのはもったいないなあと思ったりとか2回とも写った人に不公平だと心の中で非難の声を浴びせることもなくなるのであろう。素晴らしいことだ。早速購入。
 さらに古本屋に入って立ち読みをする。大阪に居るときとやってること変わらん。

 

徳島  普通 14:34

 この乗車中によくよく時刻表を調べてみると、大歩危に寄り道した場合、阪和線の天王寺発鳳行き終電に5分だけ間に合わず、天王寺駅と一夜を過ごさなければならなくなることが発覚。途中で特急か新幹線を使わなくてはならない。青春18きっぷの注意書きを読むと「このきっぷで特急に乗車する場合は特急券の他に普通乗車券が別途必要」とある。それって一体いくらかかるんだ・・・大歩危行きを諦めようか・・・・・。いや、次の機会はいつあるか分からないし、最近ちょっとリッチだし、行くぞ!! 結局、阿波池田〜多度津間で特急を利用することにした。

 

阿波池田    16:29

 この間わずか。私は走った。

 

阿波池田  普通 ワンマン 16:31

 この列車は前側と後ろ側にそれぞれ1つドアがあるだけで、その間はずっと長椅子で埋め尽くされている。普通、電車ではもっとたくさんドアがあるので、奥行きを持つ長椅子が奇妙な光景に思えた。
 秘境行きの列車に乗っているのはきっと山登りルックか鉄道マニアかと思いきや、実際に乗り合わせたのは小中学生・おじいさんおばあさんなど平凡な顔ぶれであった。思ったより沿線人口が多いようである。
 発車するとすぐに、私が座った向こうの窓からすばらしい光景が見えてきた。この路線は山と山の間の谷に沿って走っているのだ。そしてその谷には川が流れていて、その川はごつごつした岩の間を水しぶきをあげながら流れ、流れが穏やかな場所では深い青緑色をみせている。私がいそいそと反対側に移ると、今度はその光景はもといた側に現れ、こちら側は単なる山の斜面しか見えなくなっていた。人をなめてんのか、と思いつつもういちど反対側に移動すると今度はじっくりとその景色を観賞することが出来た。下を見下ろせば激しい川の流れ(写真。そこから顔を上げれば落ち着いた緑をたたえた大きな山(写真。うーん、二色パンというか、バリューセットというか、どっちも違う気がする。とにかく、よくもこんな所に線路をひいたものだなあ、と感心させられる。
 しばらく行くと谷の上の斜面にぽつぽつと人家がへばりつくように建っていた。やはり人が住んでいるのだ。
 途中の小歩危駅でおおぼけトロッコとすれ違った。けっこうすいている様子だった。乗りたかったけど、確かこれって特急扱いだったからまたお金かかるからいいや。

下を見る。

 上を見る。

 線路に対し垂直に流れる川もある。

 

大歩危    17:02

  ここでの行動可能時間は30分ほど。早速前述の撮りっきりコニカissimoミラータイプにて取材を始める。
 駅を出るとぼけマート(写真を左側から迂回するように道が伸びているが(アスファルトです)、道の左脇に山へ登る急な階段があった。それを上がると見晴らしの良い場所にでたので、駅周辺の風景をまずは普通に撮る(写真。そしてその後はもちろん私がその風景に登場する写真を撮らないとミラータイプのミラーが泣くというものである。カメラを持った手をいっぱいに伸ばし、ミラーに写った自分を見ながら、俺は何をやってるねんと思いながら微妙な角度調節をしていると、山の方から親子連れが歩いてきて「どうしよう」状態になる。私はさりげなく気まずくその親子連れが去るのをなんとかやりすごした。旅の恥は掻き捨てである。完全に過ぎ去ったのを確認した後で次の通行人が来ないうちにと手早く撮影。
 その後写真5に写っている橋の上まで行く。結構な数の車が通行していたが、旅の恥は掻き捨て。ここでも2枚撮影。
 発車5分前に駅に戻った後、車中から地元男子学生の視線を浴びているような浴びていないような感じで駅名の看板をバックに撮影(写真。ここで私は「このカメラは一人旅で使用すべきではない」という結論に達した。
 ちなみに、ミラーを使って撮った「私+風景」写真のうち写真6以外のものは、フラッシュにより風景が真っ暗になり私の顔が白く浮かび上がるというビジュアル系状態だったのでここでの掲載は自粛した。

 

 歩危マート。潔い命名。あるいは適当過ぎ。

 

  大歩危駅周辺の風景。左下の水色っぽい物体はおそらく歩危マート。

 

 狙ってやったのではありません。断じて狙ってません!!

 

 

大歩危  普通 ワンマン 17:31

 行きに乗ったのと同じ列車である。この間で雨が降ってくる。しかしすぐにやむ。

 

阿波池田    18:00

 今回は時間に余裕があるので走らずに済んだ。しばらくするとンガーという音と共に特急南風(なんぷう)が現れた。

 

阿波池田  特急 南風 18:05

 自由席に乗車。特急のくせに特別料金のくせに座席は狭苦しく、さらに横にオッサンが座ったため全然快適ではなかった。しかし左側の窓から見える景色はなかなか良かった。山の上から田んぼが広がる平地を見下ろして、地平線は低く、雲が広く、雲の描く模様が奥の方までのびていた。途中で車掌が来た(券をチェックしに来たのではなく、用聞きに来ただけ)ので呼び止めて特急券と乗車券を購入。併せて1340円。思ったより安く済んだ・・・。しかしその後一回も券の提示を求められることはなかった。買わなくても乗れていたのでは・・・・・。

 

多度津    18:36

 ここで事件が発生。
 「快速南風リレー号は、到着が7分ほど遅れる模様です」
 がーん。がびーん。坂出でのマリンライナーとの連絡は5分しかないのだ。もし次のマリンライナーに乗れなければ、影響は周り回って、最終的には天王寺駅と寝ることに。うわー責任とれー。

 

多度津  快速 南風リレー号 18:42

 予告通り7分遅れて到着。18:49発車。急げ、急ぐんだリレー号。次のマリンライナーにバトンを渡すんだー。

 

坂出    18:55

 坂出には6分遅れの19:01分着。しかしマリンライナーは待っていたのだった。ああ、ありがとうマリンライナー、と感謝しつつ全力でダッシュで乗り換え。

 

坂出  快速 マリンライナー 19:01

 車内は以外にもすいていた。夕焼けに照らされた瀬戸内海も素晴らしい景色であった。この電車に乗るときは是非とも窓側の席を確保したい。本州に着いたあたりでウトウトし始め、気が付くと岡山だった。

 

岡山    19:41

 ちょっと寝ぼけつつ晩ご飯を求めウロウロしていると、間違えて新幹線のホームに入ってしまい、出るときに「どこから入ったんや」と怒られる。キオスクで鮭弁当とポテトサラダ(スパゲティー付き)とすらっと茶(缶入り・350ml)を買う。

 

岡山  普通 20:22

 発車時刻よりかなり早めに乗車し席を確保、優雅な夕食を楽しむ。しばらくしてふと顔を上げてみると、いつの間にか車内はとても混雑していてちょっと恥ずかしかった。しかし、繰り返すが旅の恥はかきすて。耳クソの如くかいては捨てかいては捨て。というか、1時間に1本で3両編成は絶対少ないぞ。姫路人、岡山人、JR西日本に反逆ののろしをあげるんだ!!

 

姫路    21:44

 新快速は12両編成で現れた。車内はガラガラ。うーん、世の中間違ってるぞ。

 

姫路  新快速 21:58

 西明石付近でPHSが着信。NTTパーソナルのPHSは100km/h近くで移動中でも着信するのだ。素晴らしいことである。でも通話した瞬間切れた。

 

大阪    22:59

 ここはもはや私の庭である。

 

大阪  (関空?)快速 23:07

 いつも乗っている電車である。「ピーロンピーロン」というドアチャイムの音が快い。
 この電車は関空快速の車両だが関空まで行かず日根野で終点という変わった事情からか、駅の電光掲示板などには「関空快速 日根野行」と出てるのに、アナウンスと電車の表示幕では「快速 日根野行」となっている。統一しろ。別にいいけど。

 

堺市    23:30

 電車を使ってどこかに出かけるときは、ほとんど場合この駅から始まり、この駅で終わる。そしてこの駅の1番ホームで降りて、階段を上がって、改札を出て、ちょっと振り返って電光掲示板の電車案内を見て、階段を下りて・・・・・としながら、ホッとする安心感と少しの寂しさをいつも感じるのだ。
 遊んで帰ってきたにしろ、バイトから帰ったにしろ、帰省から帰ったにしろ、その感覚は同じである。
 列車というのはやけに情緒を駆り立てるところがあっていいと思う。自分に酔える。ある意味酒に似てるかも。
 でもクルマも欲しい・・・。あーあ。とりあえず免許取ろうっと。暇になるし。

 


 後日談:

 ということでこの旅行では無事におうちに帰れたのだが、その甲斐空しく、って関係ないけど、数日後高校の友人らと共に三国ヶ丘駅と一夜を共にすることに。
 その時偶然、Jスルー取り付けのため古い改札機を撤去する作業が行われていて、「鉄ちゃん」である友人Mはそれをすかさずカメラに収めていた。
 しかし硬く冷たいナイスな座り心地の駅前のベンチで夜明けまで語り明かすのもなかなかシブいというか二度としたくありません。
 めでたしめでたし。

 

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